沖ノ鳥島は「岩」なのか?

2020年7月9日以降、数日間にわたり、中国船が沖ノ鳥島*1排他的経済水域EEZ)内で日本の同意を得ないまま海洋調査を行っています。

報道によると、この活動について、中国外務省は会見で、

理由は簡単です。とても簡単です。国連海洋法条約に基づけば、沖ノ島*2は『岩礁』であり『島』ではないからです。

と述べたそうです。

中国は、沖ノ鳥島国際法上の「岩」であるため排他的経済水域及び大陸棚を有せず、日本が沖ノ鳥島排他的経済水域と主張している海域は公海であるとしています。

ここで「海洋法に関する国際連合条約」(国連海洋法条約)を見てみると、第246条1項*3に基づき、沿岸国は排他的経済水域における海洋の科学的調査を『規制し、許可し及び実施する権利』があり、他国は同条2項*4に基づき沿岸国の同意を得た上で排他的経済水域における海洋の科学的調査を実施しなければなりません

一方で、排他的経済水域を超える水域(公海)の場合は、第257条*5に基づき、全ての国が海洋の科学的調査を実施する権利を有するのです

したがって、仮に中国の行為が海洋法条約上の海洋の科学的調査であるとして、中国の言う通り、沖ノ鳥島が「岩」で、当該海域が排他的経済水域ではなく公海であるならば、中国は当該海域において海洋の科学的調査を実施する権利を有し、今回の活動は国際法上合法的なものであることになります。

では、沖ノ鳥島は果たして本当に「岩」なのでしょうか?

はじめに

詳しく問題を見ていく前に、まずは、そもそも排他的経済水域・大陸棚とは何なのかなど、海洋法(海洋に関する国際法)について基本的なことを確認しておきましょう。
 
まず、伝統的な国際法の下においては、海洋を沿岸国の領域である「領海」といずれの国にも属さず内陸国を含む全ての国が自由にその海域と資源を使用できる「公海」とに二分していました。
 
領海は、その幅員が何海里であるかは当初確定していませんでした。というのも、領海の資源は、当然、沿岸国が独占的に使用できるので、魚類資源などをはじめとする経済的資源をより確保したいとする思惑から、沿岸国には領海の幅員を拡大しようとする動きが見られたのです。
 
これに対して、資源よりも、交通の要路としての海洋を重視し、海洋を自由に航行することができるという「航行の自由」を守りたい諸国としては、全ての国が自由に海域を使用できる公海が狭まり、領海が拡大することは不都合です。いくら無害通航権*6があるといえど、領海には沿岸国の主権が及ぶからです。
 
そうした中、1982年、先ほども言及しました海洋法に関する国際連合条約」(国連海洋法条約/以下、“海洋法条約”と省略する)が第3次国連海洋法会議という国際会議で採択されました。この条約は、海洋に関する最も基本的・包括的な条約で、海洋に関する国際法の中で最も重要視されていることから、別名「海の憲法」とも称されます。
 
海洋法条約は、領海の幅員の上限を12海里と確定した*7と同時に、その第5部「排他的経済水域」(第55条〜第75条)において、排他的経済水域についての規定を設け、排他的経済水域という新たな制度を創設しました。これは、伝統的な国際法における領海・公海のいずれにも該当しない海洋法条約に基づく特別の水域であり、いわば領海・公海に次ぐ第3の水域と言うこともできます。
 
排他的経済水域は、領海基線*8から200海里を上限として設定される領海の外側の海域で、沿岸国が天然資源の探査・開発・保存・管理に関することや海洋の科学的調査、海洋環境の保護・保全など、一定の事項について主権的権利・管轄権を持ちます。
 
重要なのは、排他的経済水域は、あくまでも沿岸国が一定の事項について主権的権利・管轄権を持つというだけであって、領海とは違い、沿岸国の領域ではないし、沿岸国の主権が及ぶわけでもないということです。
 
したがって、一定の事項に関すること以外は、公海と同様に、他国が自由を有します。その一つとして、全ての国は排他的経済水域においても、海洋法条約第58条1項*9に基づき、公海と同様の航行の自由を有するのです。
 
これにより、経済的資源をより確保したいという沿岸国側の思惑と、航行の自由を重視する諸国の思惑が同時に満たされるわけですね。
 
一方で、大陸棚についてですが、これは地理学上の概念とはまた別に、国際法上の概念として、現在では海洋法条約第76条に定義されているものです。

【海洋法条約】第76条1項

沿岸国の大陸棚とは、当該沿岸国の領海を超える海面下の区域の海底及びその下であってその領土の自然の延長をたどって大陸縁辺部の外縁に至るまでのもの又は、大陸縁辺部の外縁が領海の幅を測定するための基線から200海里の距離まで延びていない場合には、当該沿岸国の領海を超える海面下の区域の海底及びその下であって当該基線から200海里の距離までのものをいう。

領海や排他的経済水域が水域の話をしているのに対して、大陸棚は海底とその地下の話をしています。地理学上も国際法上も大雑把に言えば、大陸の縁辺部まで続く緩やかな斜面のことを大陸棚といいます。ただし、先ほども言及した通り、地理学上の大陸棚と国際法上の大陸棚は厳密には別々の概念なので、その定義が必ずしも一致するわけではありません。

なお、第76条ではその後も2項から7項に至るまで例外事項や詳しい測定方法などを規定していますが、ここでは割愛します。

大陸棚については、海洋法条約の第6部「大陸棚」(第76条〜第85条)に規定されており、天然資源の探査など、一定の事項について主権的権利・管轄権を有します。

大陸棚についても、排他的経済水域と同じく、あくまでも一定の事項について、沿岸部が主権的権利・管轄権を有するというだけであって、沿岸国の領域というわけではなく、沿岸国の主権が及ぶわけでもありません

また、大陸棚を超える区域の海底及びその下は、深海底*10といい、公海と同じく、いずれの国にも属しません。

 

沖ノ鳥島に関する紛争の概要

沖ノ鳥島を最初に発見したのはスペインであることがわかっています。その後もイギリスなどが沖ノ鳥島を発見していますが、興味がなかったのか、いずれも沖ノ鳥島を領有することはしませんでした。
 
そこで、日本はどの国も沖ノ鳥島の領有権を主張してないことを確認した上で、1931年、内務省告示によって沖ノ鳥島の領有を開始しました。
 
以後、中国を含め、沖ノ鳥島が日本の領土であることについて異議を述べた国はありません。中国などが反対しているのは、日本が沖ノ鳥島の領有権を持つことではなく、あくまで沖ノ鳥島排他的経済水域および大陸棚についてです。
 
そして、その根拠としているのが海洋法条約第121条です。
【海洋法条約】第121条
1 島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。
2 3に定める場合を除くほか、島の領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚は、他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される。
3 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。
中国や韓国、台湾などは、沖ノ鳥島は海洋法条約第121条3項にいう「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩」であるため、排他的経済水域及び大陸棚を有しないと主張しているのです。
 
これに対して、日本政府としては、
歴史的に島としての地位を確立してきた沖ノ鳥島は、国連海洋法条約に従って、排他的経済水域を有する
としています。
 
日本側としては、沖ノ鳥島排他的経済水域を失うことは避けたいはずです。というのも、地理的に見て沖ノ鳥島の周囲には他に島がなく他の島を基点とした排他的経済水域とは重複していないので、沖ノ鳥島排他的経済水域を失うということは沖ノ鳥島を中心とした半径200海里*11・直径400海里の排他的経済水域を丸ごと失うことになるからです。
 
半径200海里/直径400海里の海域というのは約40平方Kmで、これは日本の全ての国土を合計した面積に匹敵します。このような、かなり広大な海域を丸ごと失うとなれば確かに影響は少なくないかもしれません。
 
このような事情から、波の浸食により水没の危機にある沖ノ鳥島を日本政府は約300億円以上の費用を投じて護岸工事を行い、消波堤や防護網の設置などを行うなど、その保全に努めています。
 

海洋法条約第121条の解釈

曖昧とした規定ぶりの背景

中国側の主張が正しいのか、それとも日本側の主張が正しいのか、それを検討するためには海洋法条約第121条の解釈問題に踏み込む必要があります。

なぜならば、第121条3項における「岩」は海洋法条約には一切定義が書かれてない上に、「岩」という用語は第121条3項のみに突如として出てくる意味不明な概念であり、条文だけでは沖ノ鳥島が「岩」なのか否か一概には判断できないからです。

一体どうして第121条3項がそのような不明確な規定になっているかというと、それには理由があり、そもそも、第121条3項の規定は、一括派分類派と呼ばれる両グループの『妥協の産物』だったのです。

海洋法条約の条文を起草(条文やその案を作ること)した第3次国連海洋法会議において、一括派は、島はどんなものであれ、これを区別することなく、一括して扱うべきであり、全ての島は領海や排他的経済水域を有すると考えていました。

これに対し、分類派は、何らかの基準によって島を分類し区別して扱うことを前提に、人の居住も独自の経済的生活もままならないような「島」に200海里という広大な排他的経済水域や大陸棚を与えることは、結果的に人類の共同財産である深海底*12を不当に狭めることになるため、そのような「島」は排他的経済水域や大陸棚を有するべきではないと考えていました。

最終的に、第121条は1項及び2項で「島」を一括して扱ったと同時に、「岩」なる新しい概念を持ち出し、人の居住や独自の経済的生活が維持できない「岩」の排他的経済水域・大陸棚を否定することで、一括派と分類派の双方に配慮した規定となりました。

このような「妥協の産物」として生まれた第121条3項の規定は、それゆえに極めて曖昧模糊としており、「岩」の定義については第3次国連海洋法会議においてもほとんど議論されることはありませんでした。

「島」と「岩」の関係性

さて、第121条の解釈でまず問題となるのは、1項における「島」と3項における「岩」の関係性です。

これには、1つに、「島」と「岩」を相互に排他的な概念と捉え、両者は全く無関係であるとする考えがあります。この考え方によれば、1項における「島」ならば必然的に「岩」ではなく、全ての「島」は排他的経済水域や大陸棚を有することになります。

沖ノ鳥島について言えば、護岸工事こそなされたものの島自体は自然に形成されたものであり、また、高潮時(満潮時)においても完全には水没せず、かろうじてその一部が水面上にあるので、「自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるもの」という1項における定義は間違いなく満たしています

つまり、この考え方を取れば、沖ノ鳥島は1項における「島」の定義を満たす以上、3項における「岩」ではないということが言えます。

日本政府も、国会答弁によると、まさにこのような理論立てによって沖ノ鳥島が「岩」であることを否定していることが伺えます。

○青山俊樹 政府委員

『私の理解といたしましては、先ほど外務省の方から御答弁がありましたように、これは岩ではなくて島である。島であれば、百二十一条におきまして「自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。」こういった意味では立派な島であるので、そういった独自の経済生活云々の三項の条項ではなくて、三項の条項は岩でございまして、島の方であれば「高潮時においても水面上にあるものをいう。」ということだけで立派な島の、百二十一条一項の要件を満たしているというふうに理解いたしております。』

(第145回国会 衆議院 建設委員会 第8号 平成11年4月16日)

また、ネット上においても、沖ノ鳥島が「岩」であることを否定する趣旨の書き込みは、そのほとんどがこうした理屈のもと否定されています。(例えば、「沖ノ鳥島は満潮時でも水没しないから島だ」のような書き込み)

しかし、この考え方は実はかなり分が悪いのです。

というのも、国連の主要機関の1つであり、最も代表的な国際裁判所である国際司法裁判所(ICJ)ニカラグアとコロンビアが争った「領土及び海洋紛争事件」の2012年の判決において、上記の考え方とは別の考え方を採用したからです。

この事件においては、ニカラグアとコロンビアがともに領有権を主張していたキタスエニョという地の法的地位が争点の1つでしたが、国際司法裁判所は、同地を第121条1項における「島」であると認めたと同時に、3項における「岩」でもあると判断し、その排他的経済水域・大陸棚を否定したのです

これはすなわち、「島」と「岩」は相互に排他的な概念ではなく、「岩」は「島」の一種であり、「島」という広いジャンルの中に「岩である島」と「岩でない島」があるという考え方を取っているということです。

この2つ目の考え方によれば、1項の「島」の定義を満たすからといって、必ずしも3項における「岩」ではないとは言い切れません。

1項における「島」の定義を満たす沖ノ鳥島もまた、3項における「岩」である可能性が出てきてしまうのです。

 

3項の具体的内容

ところで、国際司法裁判所のように「岩」を「島」の一種だと解釈したとしても、そこから導き出されるのは、「岩」が必然的に1項における「島」の定義を満たすものであるということに止まり、では「岩」とは具体的に何なのかということは未だ判然としません。
 
第121条3項についての解釈を示した国際判例はほとんどありませんが、中国とフィリピンが争った南シナ海事件において、仲裁裁判所*13は2016年の仲裁判断で初めて第121条3項の詳細な解釈を示しました
 
今のところ、第121条3項の解釈について、手がかりとなり得る重要な国際判例は上記の仲裁判断(以下、南シナ海判決とする)ぐらいでしょう。そこで、南シナ海判決における第121条の解釈を見ていくとしましょう。
 
大前提として、仲裁裁判所は、国際司法裁判所と同じく、「岩」は「島」の一種であると解釈し、1項における「島」を、排他的経済水域・大陸棚を有さない「岩」と排他的経済水域・大陸棚を有する「完全な権原を有する島」(=岩以外の島)に分類しています。
 
その上で、「岩」についての具体的内容については、条文上の要件である『人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない』をもとに解釈しています。
 
考え方としては、「岩」の中にさらに「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできる岩」と「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩」があるという解釈も成り立ち得るけど、国際司法裁判所や仲裁裁判所はこのような解釈はとっていません。
 
「岩」=「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩」であり、「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない」というのは岩の定義を述べたものと解釈しているのです。
 
なお、仲裁裁判所は、3項における「岩」であるかどうかは、地質学上の岩とは無関係であり、その地の地名や大きさとも無関係であるとしています。
 
「人間の居住」の解釈

「人間の居住」とは、そこを故郷とする安定した共同体・コミュニティによる永続的な定住であり、一時的な滞在・駐在では「人間の居住」とは言えないと解釈しています。このほか、人間の居住が可能であるために十分な食糧・水・住居などを提供する環境でなければなりません。

沖ノ鳥島について言えば、政府職員などが観測やどの目的で一時的に滞在・駐在することはあるでしょうが、沖ノ鳥島を故郷とする安定した共同体・コミュニティは存在せず、沖ノ鳥島に定住している者もいないので、この解釈によれば沖ノ鳥島が「人間の居住」要件を満たしているとは言えないでしょう。

実際に、南シナ海判決では、政府が派遣した軍人や公務員が居住していた「島」について、それは自らの意思で居住しているわけではないので、「人間の居住」要件を満たすものではないと判断しています。

 

「独自の経済的生活」の解釈

仲裁裁判所によると、この要件は「人間の居住」要件とリンクするものであり、独自の経済的生活の主体は通常、その「島」に居住する人間です。

「独自の経済的生活」とは、「島」自体に起源を有する長期的な資源の開発を指します。

これは、例えば、外部からの資源に過度に依存するもの、専ら海域・海底でのみ行われる活動、短期的な活動や1回限りの活動、現地の人間が関与しない活動、外部の人間の利益のために行われる活動などは、「独自の経済的生活」に当たらない、ということです。

沖ノ鳥島について言えば、そもそも現地に定住する民間人がいないこと、明らかにその活動は外部の資源に過度に依存していることなどから、「独自の経済的生活」要件も満たしているとは言いがたいでしょう。

 

「又は」の解釈

仲裁裁判所によると、「岩」でないと言えるためには、「人間の居住」と「独自の経済的生活の要件の両方を満たす必要はなく、いずれかの要件のみ満たせばいいとしています。

しかしながら、先ほども説明した通り、「独自の経済的生活」要件は「人間の居住」とリンクしているので、実質的には、2つの要件を満たす必要があると言えます。

 

「維持することのできない」の解釈

維持する/しないの問題ではなく、維持することのできる/できないの問題であるため、客観的に見て維持することが可能な状態であれば現に維持している必要はありません。

また、「維持」とは長期にわたり一定の水準を確保していることをいいます。

 

まとめ

以上が南シナ海判決において示された第121条3項の解釈です。この解釈によるならば、沖ノ鳥島が「岩」でないと否定することは正直非常に困難であると言わざるを得ないでしょう。

もちろん、これはあくまでも1つの国際判例に照らした結論であって、必ずしもこの判例が正しいというわけではありません。

実際、この判例の解釈は厳格すぎるという批判もあります。

ただし、そうは言ってもやはりこうした解釈を示す国際判例が現にある以上、沖ノ鳥島の法的地位をめぐり日本の主張が国際的に認められるだろうと楽観視することは賢明とは言えないでしょう。

 

「国連が島と認めた」は本当か?

ネット上や著名人の意見、さらには一部マスコミ報道などにおいては「国連が沖ノ鳥島を島と認めた」とするものが散見されます。

これは結論から言えば、正しくない情報である。以下にその理由を説明します。

 

「国連が島と認めた」という情報も全く無根拠に広まったものではありません。

大陸棚は通常、領海基線から200海里であるが、海洋法条約第76条6項*14及び同条7項*15に基づき、一定の場合には、大陸棚を最大350海里まで延長することができます。

その際、同条8項に基づき、国連の「大陸棚の限界に関する委員会」(大陸棚限界委員会)から、大陸棚延長を認める勧告を得なければなりません。

【海洋法条約】第76条8項

沿岸国は、領海の幅を測定するための基線から200海里を超える大陸棚の限界に関する情報を、衡平な地理的代表の原則に基づき附属書Ⅱに定めるところにより設置される大陸棚の限界に関する委員会に提出する。この委員会は、当該大陸棚の外側の限界の設定に関する事項について当該沿岸国に対し勧告を行う。沿岸国がその勧告に基づいて設定した大陸棚の限界は、最終的なものとし、かつ、拘束力を有する。

日本は、この規定に基づき、2008年に、7つの海域について大陸棚延長を申請しました。そのうち、沖ノ鳥島の関係する海域は四国海盆海域九州パラオ海嶺南部海域の2つです。

2012年、大陸棚限界委員会四国海盆海域の大陸棚延長を認める勧告を出し、これを受け、日本政府は、「四国海盆海域について、沖ノ鳥島を基点とする大陸棚の延長が認められた」との談話を発表し、これがきっかけで「国連が島と認めた」という言説が一気に広まったのです。

確かに、沖ノ鳥島が「岩」であれば第121条3項により大陸棚を有さないはずなので、沖ノ鳥島を大陸棚の基点とした上で大陸棚延長を認めたのであれば、それは沖ノ鳥島を島と認めたということになります。

しかし、ここには1つ大きく見落とされている事実があります。そう、九州パラオ海嶺南部海域の存在です。

実は、大陸棚限界委員会は、四国海盆海域については大陸棚延長を認める勧告を出した一方で、九州パラオ海嶺南部海域については、勧告を先送りにしたのです。

理由は、中国及び韓国の提出した口上書だ。中国及び韓国はその口上書の中で、沖ノ鳥島が第121条3項における「岩」であること、大陸棚限界委員会は科学的・技術的観点から大陸棚延長について判断する国際組織であり第121条の解釈問題など法的問題を扱う権限はないことを主張しました。

この口上書を受け、大陸棚限界委員会は、

委員会は、口上書に言及された事項が解決されるときまで、本海域に関する勧告を出すための行動をとる状況にないと考える

として、勧告を先送りにしたのです。

端的に言って、このことは国連や大陸棚限界委員会沖ノ鳥島を島と認めてなどいないということの何よりの証拠です。

もし仮に大陸棚限界委員会が本当に沖ノ鳥島を島と認めたのならば、四国海盆海域だけでなく、九州パラオ海嶺南部海域に関する勧告も出すはずなのですから。

そうだとしたら、次なる疑問は、なぜ、大陸棚限界委員会沖ノ鳥島を島と認めたわけでもないのに、四国海盆海域については大陸棚延長を認める勧告を出したのか、ということでしょう。

ここで、四国海盆海域に関する勧告を注意深く見てみると、どの島を基点とした大陸棚なのかということは勧告の中には明確に記述されてはいません

四国海盆海域の大陸棚は確かに沖ノ鳥島を基点としても成り立つけども、沖ノ鳥島以外の場所を基点としても成り立ちます。このことから、沖ノ鳥島を大陸棚の基点と認める趣旨のものではないと推測するのが妥当です。

そう考えると、九州パラオ海嶺南部海域についての勧告を先送りしたことと整合性がつくし、逆に、沖ノ鳥島を大陸棚の基点と認める趣旨のものだったと考えてしまうと、九州パラオ海嶺南部海域についての勧告を先送りしたことと整合性がとれません。

また、中国や韓国の、大陸棚限界委員会は法的問題について扱う権限はないという主張は、大陸棚限界委員会は肯定しています。

実際、大陸棚限界委員会の手続規則の附属書には以下のように規定されています。

大陸棚限界委員会手続規則 付属書Ⅰ】
5 (a) 領土又は海洋の紛争が存在する場合、委員会は、当該紛争に関係するいかなる国が提出した申請についても、検討し、また評価してはならない。ただし、当該紛争の全ての当事国が事前に同意を与えている場合には、委員会は、当該紛争の下にある一又は二以上の申請を検討することができる。
(b)委員会に対して提出された申請及び委員会が承認した当該申請に対する勧告は、領土又は海洋の紛争の当事国である国の立場に影響を及ぼすものではない

沖ノ鳥島の法的地位いかんはまさしく「領土又は海洋の紛争」に当たるため、手続規則上も勧告先送りにするのが妥当な対応だったと言えるでしょうし、やはり、この手続規則を尊重するならば、大陸棚限界委員会沖ノ鳥島の法的地位を判断してはいないだろうと考えられます。

したがって、「国連が沖ノ鳥島を島と認めた」というのは、正しくないということが言えます。

 

サンフランシスコ平和条約について

「日本国との平和条約」(サンフランシスコ平和条約)の第3条において、沖ノ鳥島は日本の領土として明記されています。

サンフランシスコ平和条約】第3条

日本国は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島及び火山列島を含む。)並びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。(以下略)

一部にはこのことをもって、沖ノ鳥島が島であることを主張するものもいますが、そもそも中国や韓国は沖ノ鳥島が日本の領土であること自体は否定しておらず、あくまで否定しているのは排他的経済水域及び大陸棚なのだから、沖ノ鳥島が日本の領土であることを示したところで全く何の反論にもなっていません。

また、国際法上、条約は当時国のみを拘束するので、サンフランシスコ平和条約の当時国ではない中国はサンフランシスコ平和条約には拘束されません。

さらに言えば、サンフランシスコ平和条約は1951年に調印、1952年に発効したところ、海洋法条約が採択されたのは1982年で、サンフランシスコ平和条約が海洋法条約第121条の問題について云々する意図を持っていたことは時系列的にもあり得ないので、サンフランシスコ平和条約を根拠に沖ノ鳥島が島であることを主張するのは、検討の余地もないほど論外と言っていいです。

 

諸外国の実例

最後に、諸外国における類似の実例を紹介しましょう。

ベネズエラのアベス島、フランスのクリッパートン島、メキシコのクラリオン島などは、日本の沖ノ鳥島と同様に、「岩」ではないかとの論争が起こっています。特にアベス島は「カリブ海沖ノ鳥島」とも言われています。

また、イギリスのロッコール島は、イギリスが海洋法条約に入る際、「岩」であるとして、自らその排他的経済水域を放棄しました。

 

参考文献

・栗林 忠男「「沖ノ鳥島」の国際法上の地位」『「沖ノ鳥島の有効利用を目的とした視察団」報告書』(日本財団、2005年)

・長岡 さくら「大陸棚限界委員会への延長申請と第三国の対応」『駿河台法学』第24巻第1・2合併号(2010年)

・加地 良太「沖ノ鳥島をめぐる諸問題と西太平洋の海洋安全保障 〜中国の海洋進出と国連海洋法条約の解釈を踏まえて〜」『立法と調査』(参議院事務局企画調整室、2011年)

・加地 良太「沖ノ鳥島を基点とする大陸棚限界延長申請への勧告 -国連大陸棚限界委員会の審査手続と中国・韓国の口上書-」『立法と調査』(参議院事務局企画調整室、2012年)

・加々美 康彦「南シナ海仲裁判断における島の定義」『国際法学会エキスパート・コメント』No.2016-10 (2016年)

・中島 啓「南シナ海仲裁判断の検討:歴史的権利及び海洋地勢の法的地位」インド太平洋における法の支配の課題と海洋安全保障「カントリー・プロファイル」国際法研究会 第5回会合(日本国際問題研究所、2016年)

・西本 健太郎南シナ海仲裁判断の意義 -国際法の観点から」『東北ローレビュー』Vol.4 (2017年)

 

*1:日本最南端の島で、東京都小笠原村に属する。

*2:中国側の沖ノ鳥島の呼称

*3:『沿岸国は、自国の管轄権の行使として、この条約の関連する規定に従って排他的経済水域及び大陸棚における海洋の科学的調査を規制し、許可し及び実施する権利を有する。』

*4:排他的経済水域及び大陸棚における海洋の科学的調査は、沿岸国の同意を得て実施する。』

*5:『すべての国(地理的位置のいかんを問わない。)及び権限のある国際機関は、この条約に基づいて、排他的経済水域を超える水域(海底及びその下を除く。)における海洋の科学的調査を実施する権利を有する。』

*6:沿岸国の平和、秩序、安全を害さないことを条件に、外国船舶が沿岸国の事前の同意なくして自由に領海内を通航することができる国際法上の権利

*7:第3条で『いずれの国も、この条約の定めるところにより決定される基線から測定して12海里を超えない範囲でその領海の幅を測定する権利を有する。』と規定している。

*8:領海の幅を測定するための基線

*9:『すべての国は、沿岸国であるか内陸国であるかを問わず、排他的経済水域において、この条約の関連する規定に定めるところにより、第87条に定める航行及び上空飛行の自由並びに海底電線及び海底パイプラインの敷設の自由並びにこれらの自由に関連し及びこの条約のその他の規定と両立するその他の国際的に適法な海洋の利用(船舶及び航空機の運用並びに海底電線及び海底パイプラインの運用に係る海洋の利用等)の自由を享有する。』なお、第87条は、公海の自由に関する規定である。

*10:海洋法条約第1条1項1号にその定義があり、『「深海底」とは、国の管轄権の及ぶ区域の境界の外の海底及びその下をいう。』と規定されている。

*11:正確に言えば、排他的経済水域は領海の外側の海域なので、12海里の領海を除いた188海里が排他的経済水域である。

*12:海洋法条約は第136条で『深海底及びその資源は、人類の共同の財産である。』と規定している。

*13:海洋法条約に基づき、特定の紛争を解決するために設置される裁判所

*14:『5の規定にかかわらず、大陸棚の外側の限界は、海底海嶺の上においては領海の幅を測定するための基線から350海里を超えてはならない。この6の規定は、海台、海膨、キャップ、堆及び海脚のような大陸縁辺部の自然の構成要素である海底の高まりについては、適用しない。』

*15:『沿岸国は、自国の大陸棚が領海の幅を測定するための基線から200海里を超えて延びている場合には、その大陸棚の外側の限界線を経緯度によって定める点を結ぶ60海里を超えない長さの直線によって引く。 』